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マレーシア実務「SST制度」の導入(売上税・サービス税)

マレーシア実務「SST制度」の導入(売上税・サービス税)

※本稿は、みずほ銀行発信の『Asia Gateway Review』2018年11月号に寄稿した記事の転載になります。Asia Gateway Reviewはみずほ銀行シンガポール支店で編集され、主にASEAN関連のテータを中心に月一回発行されているニュースレターです。

1. はじめに

マレ一シアでは2018年5月9 日の総選挙において、マハティール・モハマド氏率いる希望連盟(PH)が勝利し、1957年の独立以来、初の政権交代が実現しました。PHは公約としてGST(Goods and Service Tax)の廃止、及び、SST(Sales and Service Tax)の再導入を掲げておりましたが、GSTの廃止については、2018年6月1日より税率が0%に変更され、実質的にGSTの廃止がされました。一方で、SST法案は2018年7月31日に連邦議会下院に提出され、8月7~8日に下院を、20日に上院を通過し、同月24日に国王が承認、予定通り、9 月1日に施行が開始されました。

 

5月の総選挙から4ヵ月足らずという短期間でGSTが廃止されSSTが再導入されており、在マレーシアの日系企業様からも多くのお問い合わせをいただいている論点となっております。そこで今回は、本稿においてマレーシアのSSTの基礎をご紹介したいと思います。

 

2. GSTとSSTの基本的相違点

GSTは、日本の消費税同様、「消費」という行為に広く公平に課税する間接税です。税金の最終的な負担者は 我々最終消費者ですが、最終消費者が負担した税額を、生産、流通の各段階で事業者が徴収し(預かり)、その事業者たちが間接的に申告・納付を行う税金であり、取引の各段階ごとに課税がされるため、「多段階課税」と言われております。一方でSSTは、「一段階課税」と言われており、生産、流通の各段階で課税されるのではなく、ある一時点の取引を捉えて課税がされるため、その取引を行った特定の事業者が、その特定の取引について税金を徴収し、その後申告・納付を行う仕組みとなっております。

 

GSTについては、GSTを支払った側がGSTの登録事業者であれば、「仕入税額控除」という仕組みを利用し、申告によってGSTの還付(税額控除)を受けることができましたが、SSTでは、原則的に「仕入税額控除」の仕組みはないため、支払ったSSTをコストとして認識しなければならないという点が、GSTとの大きな相違点と考えられます。

 

3. Sales Tax (売上税)の課税

SSTは、法律自体もSales Tax(売上税)とService Tax(サービス税)が別々になっているため、それぞれにわけて解説していきます。

 

Sales Taxは、登録製造業者がマレーシア国内で課税対象商品を事業目的で製造した場合、若しくは、課税商品をマレーシア国内に輸入した場合に課税が発生します。GSTでは、生産から流通の各取引について最終消費者に至るまでGSTの請求が必要とされておりましたが、Sales Taxに関しては、基本的に輸入を除いて、製造業を営む事業者がマレーシア国内で「製造」をしたときの一時点のみをもって課税がされることになります。

 

また、Sales Taxの税率は10%(一部につき5%) とされております。

 

4. 課税対象商品

自社がマレーシアで製造する商品が課税対象に該当するか否かの判定については、その各商品のタリフコード
(HSコード)により判別できます。マレーシアカスタムが公表しているウェブサイトにて各タリフコードごとに、Sales Taxの税率が公開されておりますので、マレーシアにて製造を行う場合には、自社の商品のタリフコードにてSales Taxの確認が必要となります。

 

GSTの課税対象品目が11,197品目あったのに対し、Sales Taxの課税対象品目は6,400品目に減少しております。政策的配慮から建築関係の品目が対象外とされたことが品目減少の大きな要因の一つとなっております。

 

5. 登録製造業者

マレーシアにおいて課税対象商品を製造し、かつ、課税売上高RM500,000以上の事業者についてはSSTの登録 製造業者として登録しなければなりません。なお、RM500,000の計算は、当月と前月以前11ヵ月の課税売上の合計、若しくは、当月と翌月以降11ヵ月の課税売上の合計により計算します。

 

6. マレーシア国内での製造

「製造」の定義は、「有機若しくは無機原料を人的若しくは機械的方法でその原料のサイズ、形、配合、特性、若しくは、質を変えることにより新たな製品にすることをいい、部品から機械の一部やその他の製品への組み立ても含む」とされております。

 

ただし、マレーシア国内での製造であっても、Designated Area(DA)やSpecial Area(SA)での製造、及び、課税商品の輸出はSales Taxの対象外とされております。DA/SAが絡む取引の各取り扱いについては下表の通りとなります。

 

課税商品の供給元供給先売上税の課税関係
Principal Customs Area
(”PCA”)
DA/SA対象外
(DA/SAへの商品の輸出)
DA/SAPCA課税
(マレーシアへの課税商品の輸入)
OverseasDA/SA対象外
DA/SAOverseas対象外
(外国への商品の輸出)
DA/SADA/SA対象外

 

7. 免税措置

上記2.で紹介した通り、SSTでは仕入税額控除の仕組みがないため、原則的に課税対象となる仕入を行った場 合には、その支払った税金は仕入を行った側でコストとして認識されることになるため、その仕入れを行った事業者は、原則的にその税金相当を販売価格に上乗せする方法でしか、支払った税金相当を取り返すことができません。

 

ただし、一定の事業者については、事前に申請をして承認を受けることにより、課税仕入れについてSales Taxの支払いを免除される措置が設けられております。

 

具体的には、スケジュールA、B、Cの3種類の免税措置が設けられており、スケジュールAについては、政府機関 等の一定の事業体(71タイプ)について認められた免除措置、スケジュールBについては、特定の商品(4品目)の売買について認められた免税措置、スケジュールCについては、一定の事業を行う登録製造業者についてのみ認められらる免税措置となっており、いずれも事前承認が必要とされております。

 

8. 輸出品に係る還付申告

上記7.同様、仕入税額控除の適用がないため、SSTでは原則的に還付申告が発生することはありませんが、仕 入を行ってから6月以内にその課税商品(石油を除く)を輸出する場合には、輸出から3月以内に申告をすることにより、その課税商品の購入の際に支払ったSales Taxについて還付を受けることが認められております。

 

9. Service Tax (サービス税)の課税

Service Taxは、登録事業者がマレ―シア国内において事業目的で課税対象サービスを提供した場合に課税され ます。

 

また、Service Taxの税率は原則的に6%とされております。

 

10. 課税対象サービス

Service Taxの課税対象サービスについては、下記A~Iまでの9つのグループに分けられ、それぞれどういった事業者がどういったサービスを提供した場合に課税対象となるかが詳しくリスト化され、SERVICE TAX REGULATION 2018において公表されております。

 

  • GROUP A: ACCOMMODATION
  • GROUP B: FOOD AND BEVERAGE
  • GROUP C: NIGHT-CLUBS, DANCE HALLS, CABARETS, HEALTH AND WELLNESS CENTRES, MASSAGE PARLOURS, PUBLIC HOUSES AND BEER HOUSES
  • GROUP D: PRIVATE CLUB
  • GROUP E: GOLF CLUB AND GOLF DRIVING RANGE
  • GROUP F: BETTING AND GAMING
  • GROUP G: PROFESSIONALS
  • GROUP H: CREDIT CARD AND CHARGE CARD
  • GROUP I: OTHER SERVICE PROVIDERS

 

GSTの課税対象となるサービスが全体の64.8%だったのに対し、Service Taxは全体の43.5%と課税対象サービスの範囲は縮小しております。

 

11. 登録事業者

マレーシアにおいて課税対象サービスを提供し、かつ、課税売上高RM500,000 以上の事業者についてはSSTの 登録事業者として登録しなければなりません。なお、RM500,000の計算は、Sales Tax同様、当月と前月以前11月の課税売上の合計、若しくは、当月と翌月以降11 月の課税売上の合計により計算します。ただし、金額基準については、GROUP BのFOOD AND BEVERAGEについてはRM1,500,000、GROUP HのCREDIT CARD AND CHARGE CARD、及び、GROUP Iの通関業者が行う通関サービスについてはRM0とされております。

 

12. SSTの申告·納付

Sales Tax、Service Tax共に、原則的な課税期間は2ヵ月とされており、申告・納付の期限は、各課税期間終了日の翌月末日とされております。

  • 八鍬 信幸

    監修者

    八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    ASTHOM事業部長・税理士

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。

    2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、2018年からマレーシアの現地大手アカウンティングファームのCrowe Malaysiaへ出向。シンガポール・マレーシアを拠点として、クロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。

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