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社外取締役とは?求められる役割や取締役との違い、設置が必要なケースや報酬相場を解説

社外取締役とは?求められる役割や取締役との違い、設置が必要なケースや報酬相場を開設

社外取締役とはどういう役職かについて解説しています。役職の任期や選任方法、必要性や求められるスキル・役割、通常の取締役との違いや社外取締役が必要なケースなどについても紹介しています。社外取締役について調べている方は参考にしてください。

社外取締役とは

社外取締役とは

社外取締役とは、社外から招いた取締役のことです。社内取締役は社内で営業やマーケティング、人事、経理、開発などの担当部門を受け持つことが一般的ですが、社外取締役は担当部門を持たずに経営状況のチェックや監督機能を担います。社外取締役には、社内の利害関係にとらわれない職務の遂行が期待されます。

 

社外取締役が求められる背景には、コーポレート・ガバナンス強化への注目の高まりがあります。バブル経済崩壊までの日本では、企業経営の一定領域まで銀行が関与する形態が一般的でした。その後の規制緩和による資金調達手段の多様化や、銀行が抱える不良債権などの事情により、徐々に銀行の影響力が低下していきました。

 

株式会社の経営に対する株主の影響力が強まり、企業は健全で効率的な運営を行うための仕組みとしてコーポレート・ガバナンスを重視するようになりました。不正の発生しない健全さを保ち、株主をはじめとしたステークホルダーの利益を最大化する運営体制の構築が求められ、そのために社外取締役の設置が必要とされました。

※なお、上場企業では社外取締役の設置が義務づけられています。

 

上場を目指す際には、上場審査の段階で機関設計や運営体制が厳しくチェックされるため、社内体制作りの一環として社外取締役の設置を検討する必要があります。最近では女性の社外取締役が増加傾向にあり、2022年から2023年にかけて1割ほど増加しています。

 

参考:株式会社プロフェッショナルバンク「【2023年「上場企業の女性社外役員就任動向・傾向」分析】一都三県の上場企業、女性社外役員が1年で1.2倍に増加し2,357人に。東証プライム市場の女性社外役員就任企業率は83.8%」

 

社外取締役の任期

社外取締役の任期は他の取締役と同様に通常2年であり、定款または株主総会の決議で短縮できます。公開会社ではない株式会社の場合、定款で定めることにより最長10年まで任期の延長が可能です。

 

社外取締役に対して長い任期の設定は推奨されていません。これは慣れ合いや多様性の低下によって、社内の利害関係にとらわれない経営判断やコーポレート・ガバナンスの強化を遂行できない恐れがあるためです。

 

出典:法務省「役員の任期について」

 

社外取締役の選任方法

社外取締役の選任は、株主総会の普通決議で行います。株主総会での決議後は議事録を作成し、登記申請書などの書類と合わせて法務局に申請して、役員変更の登記をしなければなりません。登記書類の作成と、必要書類をそろえて押印するといった準備作業には手間がかかるため、司法書士への依頼を検討しましょう。

 

オンライン登記書類作成など支援サービスを利用すれば、司法書士に依頼するよりも費用を抑えられ、スピーディーな処理が可能です。登記申請が複雑になる場合には、オンライン登記書類作成サービスよりも司法書士に依頼する方が時間も費用も節約できるケースがあるため、内容に沿って検討しましょう。

 

社外取締役の選任要件

社外取締役には選任要件があり、主に以下の内容が挙げられます。これらは透明性を確保するために必要とされる条件です。

 

  • 現在及び過去10年間に企業の業務執行取締役でないこと(会計参与や監査役も含む)
  • 該当企業の取締役や執行役、支配人など重要な地位についている人の配偶者及び2親等内の親族でないこと
  • 該当企業の親会社や、親会社の子会社などの業務執行取締役でないこと

 

社外取締役の必要性と求められる役割

社外取締役の必要性と求められる役割

上場企業では設置が必須とされる社外取締役ですが、ここでは、その役割の必要性と求められる役割について解説していきます。

 

取締役会への参加

社外取締役は取締役会に参加する義務があり、自らの知見を活かした有効な意見やアドバイスが求められます。取締役会は最低3か月に1回は開催され、代表取締役や執行役員らと共に社外取締役も参加します。

 

取締役会において、社外取締役は客観的な視点から経営陣に新鮮な気付きを与えたり、専門的な知識に基づいた助言をしたりといった役割を期待されます。自身の専門知識を活かして有意義な議論を行うために、事前の情報収集は徹底しておく必要があります。

 

株主(投資家)との対話

株式会社の所有権は株主にあり、会社法では「株式会社は株主のもの」と定められています。株主は経営に直接関われませんが、株主総会で意見を述べることで影響を与えられます。

 

企業の方向性や経営戦略は、取締役が決定します。株式会社の経営者は利益を出し、それを株主に還元することが求められますが、社内経営陣の判断だけでは株主の利益が損なわれたり、少数株主の意見は反映されにくかったりする事情があります。

 

社外取締役には、客観的な立場で株主と対話して経営陣との橋渡しをすることで、株主との信頼構築や株主価値の向上に努める大事な役割があります。

 

コーポレート・ガバナンスの強化

コーポレート・ガバナンスは企業統治と訳され、株主をはじめとした顧客や従業員、地域社会等の各関係者の立場を踏まえたうえで、企業が透明で公正かつ迅速な意思決定を行うための仕組みを指します。言い換えれば、「企業経営を監視する仕組み」です。

 

コーポレート・ガバナンスの概念に則り、社内での不正を防ぐために経営を監視する仕組みを強化する必要があり、社外取締役には中立な立場での判断が求められます。

 

企業内部やその利害関係者のみでの企業経営を行うと、経営陣によって社内の論理を優先した判断が行われたり、不正が行われたりする可能性が高まり、株主をはじめとしたステークホルダーに不利益が生じる可能性があります。

 

例えば、組織内で無理なノルマを課された結果、ノルマが達成できなかった際にデータの改ざんが行われ報告された不正事例もあります。

 

コーポレート・ガバナンスを強化することで企業経営の透明性が高まり、金融機関や投資家などとの良好な関係が構築でき、新たな投資を受けやすくなります。円滑に資金調達ができれば財政状態が安定し、事業投資や優秀な人材の確保が期待できるため、結果として企業価値の向上につながります。

 

客観的な経営助言

社外取締役は、基本的には企業の業務執行や経営判断の主体とはなりません。

 

例えば経営陣が無理な戦略にチャレンジしようとしている際に客観的に反対意見を述べたり、保守的で新たなチャレンジに尻込みする経営陣に対しては積極的な見方ができるようアドバイスしたりなど、意思決定する際の判断材料としての意見を求められます。

 

社外取締役と社内取締役の違い

社外取締役と社内取締役の違い

通常の取締役は社内の人間が昇進してなる役職であり、企業の業務執行に関する意思決定を行う役割を担います。

 

一方で、社外取締役は取引や資本関係のない社外から新たに招いた人物が就任する点が異なります。

 

社外取締役には社内の利害関係に囚われず、第三者視点での意見を述べることが求められます。

 

社外取締役の設置が必要なケース

社外取締役の設置が必要なケース

法改正により、上場企業では2021年3月1日から社外取締役の設置が義務化されており、1名以上の社外取締役を確保する必要があります。この前段として、2015年に東証のコーポレートガバナンス・コードによって社外取締役の設置義務が提唱されていました。

 

上場を目指す企業についても社外取締役の設置状況が問われる可能性があるため、上場審査前から社外取締役を設置しておいた方がスムーズな手続きが望めます。

 

また、委員会設置会社についても社外取締役の設置が義務付けられています。委員会設置会社とは、取締役の中に委員会を設置することで、経営監督機能と業務執行機能を分離した組織形態です。

 

委員会設置会社には「監査等委員会設置会社」と「指名委員会等設置会社」の2種類があります。監査等委員会設置会社では、取締役の中から「監査等委員」を3名以上選任しますが、その過半数は社外取締役であることが必要です。指名委員会等設置会社では、取締役の中から3つの委員会を構成する委員を各3人以上選任しますが、それぞれ過半数を社外取締役とします。

 

社外取締役の設置義務違反を犯した場合、100万円以下の過料に処される可能性があります。証券取引所の社外取締役設置義務規定に違反した場合は、特別注意銘柄への指定や公表措置、上場契約違約金の徴収、最悪のケースでは上場廃止もあり得ますので、注意が必要です。

 

出典:法務省「会社法の一部を改正する法律について」
出典:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 (2015年12月末時点) 」

 

社外取締役に求められるスキルや経験

社外取締役に求められるスキルや経験

社外取締役には、選任要件を満たすだけでなく、役割を果たすために特定のスキルや経験が求められます。ここでは、社外取締役に求められるスキルや経験について解説します。

 

経営に関する知識や経験

社外取締役は、経営に関する客観的な視点でのアドバイスが求められるため、経営に関する豊富な知識や経験が必要です。過去に企業を経営した経験がある、または社外取締役を務めたことがあるなど、相応の経験が求められます。

 

実際の採用事例でも、大企業の取締役経験者や上場企業の社長を退任した人が別の企業の社外取締役になるといったケースが見られます。

 

参考:リクルートエグゼクティブエージェント「社外取締役、顧問の採用事例」

 

法律や税務・会計の知識

企業を経営する上で、会社法や商法といった法律の知識、税務・会計の深い知識が求められます。

 

そのため、弁護士や公認会計士などが社外取締役として選任され、法務や税務、財務、会計部門の強化を図ることも珍しくありません。

 

特定分野の専門スキル

IT部門や人事部門など、社内で不足している分野の知見を持つ人材を選任し、その分野を強化することも社外取締役を設置する目的です。企業の属する業界に関する深い知識や経験を持つ人材を採用し、自社の専門分野を強化することを目的とする場合もあります。

 

例えば、グローバル経営や営業、ブランディングやマーケティング、ESG経営や合併・買収といった、企業が所属している業界の知識だけでは得にくい分野の知見が挙げられます。

 

社外取締役の報酬相場

社外取締役の報酬相場

2020年5月に経済産業省から公開された「社外取締役の現状について」の資料によると、社外取締役の報酬額は600万円~800万円未満が最多で21.5%でした。時価総額が高く、規模の大きい企業ほど社外取締役の報酬は高くなる傾向にありますが、全体の約67%が報酬1,000万円未満であるため、一般的な社外取締役の報酬相場としては600万円~800万円が妥当と考えられていることがわかります。

 

アンケートを取った社外取締役の中で、約8割の人が現在の報酬は妥当であると答えており、業務に見合った報酬であると感じている人が多いという点も読み取れます。

 

社外取締役の報酬を決定する際は、社内取締役の報酬とのバランスについて考慮が必要です。社外取締役の役割はあくまで外部からの知見の提供や、取締役の業務執行の監督であるため、経営や業務執行を中心に行う社内取締役の方が報酬は高くなるのが一般的です。

 

社外取締役に他業種での知見の活用や経営への関与を希望する場合、高いスキルや相応の業務負担を求めることになります。そのため、業務に見合った報酬を設定しないと求められる人材は獲得しにくいでしょう。

 

他の企業で役員を務めていたり、弁護士や公認会計士、税理士といった資格を持って仕事をしていたりする人も多く、そうした職種の収入も踏まえて報酬を設定するようにしましょう。

 

出典:経済産業省「社外取締役の現状について」

 

まとめ

社外取締役とは?求められる役割や取締役との違い、設置が必要なケースや報酬相場を開設

社外取締役には、企業外部から招いた人間として、客観性や新しい知見、株主との橋渡しなどが求められ、専門的なスキルや経験から企業への貢献が期待されます。

 

コーポレートガバナンス・コードや会社法で、上場企業には社外取締役の設置が義務付けられており、社外取締役の必要性は増しています。上場を目指す企業にとっては、早期に準備しておくべきポジションといえます。

 

企業経営に役立つ人材が求められているため、経営経験や取締役として就任していた経験、法律や税務・会計の知識、特定分野の専門スキルが必要とされます。社外取締役の募集にあたっては、担当してほしい業務を明確にし、それに見合う報酬を準備しましょう。

  • 末廣 正照

    監修者

    末廣 正照

    株式会社AGSコンサルティング
    ファンド事業部長

    大学卒業後ベンチャー企業へ就職、IPO準備業務を経て2002年にAGSコンサルティングに参入。入社後はIPO支援を中心としつつ、上場会社の社外投資も兼任。ファンド運営にも従事し、REVICをはじめとして複数のファンドでの投資委員を務める。2018年以降はIPO事業部長として40名前後のメンバーのマネージメントを行い、2023年よりファンド事業部長に就任。

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