• 国際

【マレーシア税務】マレーシアの電子インボイス制度

【マレーシア税務】マレーシアの電子インボイス制度

2024年8月から一定規模の事業者に対して適用が開始される、マレーシアの「電子インボイス(e-Invoice)制度」。原則、すべての個人・法人に対して適用される本制度が、マレーシアにおけるすべての商取引の実務上の手続きに与える影響は非常に大きく、マレーシア国内においても注目度の高い制度となっています。

 

本稿では、マレーシアに進出している日系企業向けに、マレーシアの電子インボイス制度について解説します。

※本稿は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の情報サイト「BizBuddy」寄稿記事の転載となります。

どんな制度?

「電子インボイス制度」と聞いて、「これまで紙で発行していた請求書を、PDF等のデータで発行するようにすればよいの?」と想像する方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

 

ただ単に請求書をPDF等のデータで発行すればOK、といった制度ではなく、マレーシアで発行する請求書等について、原則的にマレーシア税務当局に対して認証の申請を行い、その承認を受けた請求書等でなければ、有効な請求書等として認められなくなってしまうという制度になります。

 

制度適用開始のタイムライン

マレーシアにおける電子インボイス制度の適用開始時期に関しては、売上金額に応じて3段階が設定されています。

 

適用開始時期2024年
8月1日~
2025年
1月1日~
2025年
7月1日~
売上基準(2022年)1億リンギ超2,500万~1億リンギ2,500万リンギ未満

 

上表のとおり、制度の適用初期に関しては売上基準が設けられており、基準額に満たない事業者は対象外になります。しかし、2025年7月1日以降は、基本的にすべての事業者が適用対象となります。

 

対象取引

原則的に、すべての商取引が対象となります。一定の免除取引が定められているものの、B to B、B to C、B toG(Government)に関係なく、すべて電子インボイス制度の適用対象取引とされています。

 

対象書類

電子インボイス制度の適用対象となる書類は、Invoiceだけではありません。下記、4種類の書類が対象とされています。

 

  1. Invoice(請求書)
  2. Debit Note(黒伝票(黒伝) ※追加料金等の請求書
  3. Credit Note(赤伝票(赤伝) ※減額修正等の支払書
  4. Refund Note(返金票)

 

従って、Invoiceを発行したタイミングだけでなく、その後、Credit Note等を発行した際も同様に電子インボイスの発行が必要となります。

 

認証方法

冒頭にて、マレーシアにおける電子インボイス制度は、事業者が発行する請求書等に対して税務当局から認証を受ける制度と説明しました。では、税務当局の認証を受けるためにはどうしたらいいのでしょうか。具体的には、大きく下記の2種類の方法があります。

 

1.MyInvois Portalを利用し、直接認証を受ける方法

マレーシアの税務当局が提供するポータルサイト、“MyInvois Portal”が公開される予定(無料)です。このポータルサイトを通じて、事業者は発行する請求書等について申請を行い、認証が受けられる仕組みになる見通しです。

 

2.API(Application Programming Interface)によりシステム連携する方法

事業者が使用している既存の請求書発行システムとMyInvois PortalをAPIにより連携することで、システムを統合します。この方法は、事業者の文書処理と認証申請作業を自動化できるため、1のように個別にMyInvoisPortalにおいて請求書等の認証を受ける必要がなくなります。

 

税務当局が提供するMyInvois Portalは無料で利用できます。1の方法では、システムの構築等を必要としないため、システム投資コストは発生しません。しかし、Invoice等の認証に関してMyInvois Portalでの手続きが必要となりますので、手間が発生します。

 

一方で、2のAPIによる方法は、1に比較し、認証の取得に手間がかかりません。しかし、初期の段階でシステム構築等のコストが発生することが考えられます。

 

一般的には、取引件数の多くない事業者に関しては1のMyInvois Portalを利用する方法が、取引件数が比較的多い事業者に関しては2のAPIによりシステム連携する方法が選択されることが予想されます。

 

おわりに

本稿では、電子インボイス制度の概要を解説しました。本稿執筆時点は本制度の適用開始前であり、実務上の対応について不確かな部分がありますが、本稿の情報が企業の皆様にとって有用な情報となることを願います。

  • 八鍬 信幸

    監修者

    八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    ASTHOM事業部長・税理士

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。

    2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、2018年からマレーシアの現地大手アカウンティングファームのCrowe Malaysiaへ出向。シンガポール・マレーシアを拠点として、クロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。

    他の記事を見る